船上鍼灸師の業務は”治療”ではない

今やクルーズ船で鍼灸師として働くという選択肢はかなり浸透しており、

船で働いていたという鍼灸師は珍しくない。

 

 

僕も船に乗ったのは今回が初めてだが、豪華客船で世界をめぐりながら治療をして生活するという響きは

とても魅力的でマレーシア時代(2015年くらい)からずっと機会が来たら船を経験してみたいと思っていた。

 

きっと僕以外にもそう考える人は少なくないと思う。

 

 

 

実際に船上鍼灸師になってみて正直に言えば

日本のそこら辺の接骨院で最初は鍼も持たせてもらえず、低給料でかつ時間外労働とかに勤しむ人生とかよりは控えめに言って1万倍以上楽しいのではないか(そんな就労環境がいまだに存在するとは信じたくはないが、少なくとも僕が日本にいた7年前くらいまではあった)とは思う。

 

僕自身は日本の接骨院で働いたことはないので上記の数字は当てにしないで欲しいが、そう言えるくらい僕としては船で働くのは楽しかった。

 

 

だが結局それも人によりけりで、船を途中で去る人も少なくはない。

 

 

 

それはもしかしたら船に乗る前に想像していた

船で治療をしながら世界を周ることの現実が理想とは違っていたのかもしれない。

 

 

まず船で鍼灸師として働くには理解しておくべきことがある。

 

 

船上鍼灸師のメインの業務は治療ではない。

 

 

 



 

船上鍼灸師は”治療家”ではないことを理解する

ここを勘違いしているといざ船に乗って想像と違うということになりかねない。

 

 

船上鍼灸師の仕事の大部分、それは治療ではなく集客”

 

 

 

船に初めて乗る際、鍼灸師は全員ロサンゼルスでトレーニングを受けることになる。

たった三日間だけだが、そのトレーニング内容の大部分はセミナーエレベーションスピーチ(客の前でする手短なスピーチ)

などといったプロモーショントレーニングであってそれは他でもなく集客の為に行う。

 

ここからも分かる通り、この会社は治療方法や施術者の技術なんて気にしていない

 

実際に船の上では”患者の声”や”症状が改善しているかどうか”よりも

売り上げが出てるか出てないかが常に評価基準として会社から見られることになる。

 

 

 

とは言え治療家ではないといっても対価は確かに治療に大して支払われることになる。

治療をより多く行うだけ、売り上げも伸び、収入も上がる。

 

 

 

集客はその治療を行うために必要になる前段階であり船の業務では最も重要なポイントとなる。

 

 

 

基本的に最初は誰も鍼灸を受けたくはない

船に鍼灸師として乗船するにあたって

間違っても乗客は皆鍼を受けに来たがってるとは思ってはいけない。

 

ヘアースタイリストやマッサージなどはクルーズが始まる前からオンラインブッキングが入っているが

鍼灸はかなり稀だ。

僕が船にいたこの7ヶ月間では多分三件ほどしかない。

 

 

 

自分が乗客でクルーズ船でホリデーに行く場合を想定してみて欲しい。

近所では5000円くらい払えばほぼ間違いなく受けられる鍼治療を一回1万7000円くらい出して

かつ休暇中に受けたいと思うだろうか。

 

 

僕なら間違いなく受けようとは思わない。どうせならその分いいワインを飲んだり、高めのツアーに行ったり、マッサージでのリラックスを考える。そして休暇が終わった後で近所の鍼灸師に行こうとなる。

 

これには多分多くの人が同意するだろう。乗客も同じだ。

 

 

 

 

クルーズ船の乗客はお金持ちなので料金はあまり気にしないというイメージももしかしたらあるかもしれない。

 

そこも解説すると欧米ではクルーズは一般的な休暇という認識で、

多くの豪華客船の旅は割とリーズナブルでクルーズによっては暇のある大学生でも行けてしまうくらいの料金だ。

 

 

乗客は基本的に一般的な家庭が多い。

 

 

裕福な客層も勿論あるが、

金銭感覚が一般人と違うくらいの金持ちはクルーズに行く以前に、自分の船を所持している。

 

 

 

乗客の期待値がこの程度であれば、向こうから治療にくることなどまずありえない。

 

だからこそ集客が何よりも大事で、逆に集客ができなければ乗客が治療にくることはないだろう。

 



 

治療重視よりも、集客重視で上がる業績

治療件数がなかなか上がらず、暇であれば

勿論空き時間にプロモーションを行うことになる。

 

しかし例え集客に成功し、治療で忙しくなったとしてもセミナーやテレビなどといったプロモーションは絶えない

継続的に新しい顧客を獲得し続けられなければ売り上げを上げ続けることができないからだ。

 

 

 

集客を効率よく、継続的に行えれば売り上げは自然に伸びてくる

逆に集客がうまくいかなければ、いかにいい治療をしたとしてもその患者の治療を終えれば再び顧客獲得に苦労する

 

 

 

確かにいい治療をして口コミが広がって患者が来たり、一度治療を終えた患者再び治療を受けたいとやってくることもある。

 

それは治療技術によって患者が増えるケースだが、そもそもまず集客ができずに治療すら始められないのであれば口コミの広がり様もない。

 

どちらが効率よく業績を上げれるかは明白である。

 

 

 

実際に技術がなく、乗客からの評判が悪くとも

集客が上手で業績が上がる人は鍼灸師と限らず多くいる。

 

 

売り上げ重視の会社から見れば後者の人間の方が優遇されるだろう。

 

 

 

 終わりに

こんな記事をつらつらと書いておいて最後に言わせていただきたい。

 

技術は重要だ。

当然治療技術がないよりはあるに越したことはない。

 

 

ただ治療技術だけでは船の上で成功するのは難しくとも、

集客を上達させるだけで成功することはできる。

 

 

故に船の上は治療家のフィールドではない。

 

 

 

もしも船に乗ろうと考えているのであれば

技術に自信がある=成功ができる

といった式は成り立たないと言うことは理解しておこう。

 

 

 

そうでないと

想像と違う、患者がこない、会社が自分の技術を見てくれない

などと言った理由で船上生活を楽しめずに終わってしまうかもしれない。

 





この記事が気に入ったら
いいね!

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*